ロゴ制作でスケッチを先に描く理由
ロゴの制作依頼を受けたとき、最初にすることはIllustratorを開くことではありません。A4のコピー用紙を取り出して、鉛筆でひたすら描くことです。この順序にこだわり始めたのは独立してからで、渋谷の制作会社にいた頃はデジタルから始めるのが当たり前でした。7年間この仕事をしてきて、スケッチを先に挟む価値を改めて整理してみます。
デジタルデータは「捨てにくい」
IllustratorやFigmaで作ったデータには、時間と手間がかかっています。その分、気に入らなくても捨てにくくなります。「せっかく作ったから」という感覚は、デザイナー自身の判断を鈍らせます。
紙のスケッチは違います。気に入らなければ次のページに移るだけです。この「捨てやすさ」が、初期段階のアイデアの幅を広げます。1時間のスケッチセッションで20〜30案を描き、そのうち3〜4案を次のステップに持ち込む、というのが通常の流れです。
クライアントとの合意形成がしやすい
完成度の高いデジタルデータをクライアントに見せると、「フォントの太さが気になる」「色がもう少し明るい方がいい」という細部の話になりがちです。方向性そのものが合っているかどうかの議論がしにくくなります。
スケッチを見せると、「こっちの方向が近い」「これは全然違う」という反応が自然に出てきます。ラフな線の方が、クライアントが「自分の意見を言っていい」と感じやすいようです。この段階で方向性を固めてからデジタルに移ると、大きな方向転換が起きにくくなります。
スケッチで確認できること、できないこと
スケッチで確認できるのは、形の方向性とバランスです。文字の太さ、モチーフの大きさ、余白の取り方など、構造的な判断はスケッチの段階でほぼ決まります。
一方、色・フォントの細かい選択・印刷時の再現性はデジタルでないと確認できません。スケッチはあくまで「構造の設計図」であり、仕上げはデジタルで行います。この役割分担を意識することで、それぞれのツールを適切な場面で使えます。
スケッチを先に描くことは、時間の節約でもあります。方向性が決まってからデジタルに移る方が、結果的に修正の回数が減ります。